Hon for Japan.主催 佐藤浩幸さん(仙台市青葉区・33歳・会社員)

「ライフラインが断絶されて、会社も休みになってしまった震災直後の不安な時期、僕の心の支えになってくれたのは本でした。自分と同じように本の大好きな人が、津波で蔵書を流されてしまっている。被災地で興味を持って手にとれる本があれば、心を休めることができる人もいるかもしれない」
仙台市青葉区でプランナーとして働く、佐藤浩幸さんが個人で企画運営する「Hon for Japan.」。全国から本や漫画、雑誌などの寄付を募り、被災地にてプレゼント会を催すという活動を行っている。
企画を立ち上げたのは震災の起きた3月末。インターネット上で「あなたの思い出のつまった本を、被災地に送りませんか?」と呼びかけ、5月上旬までに全国からおよそ13000冊の本を集めた。
個人での活動のため、まずは本の保管場所に奔走。有志の仲間の協力を得ながらレンタルの2tトラックに積み込み、休日を利用して被災地で配布する。
5月5日の石巻市での配布会では、持ち込んだ6000冊の本のうちおよそ5000冊が被災者の手にわたった。開始時刻の午前10時から行列ができ、混雑は15時まで続いた。
5月21日には、気仙沼市内で活動中の地元被災者による復興チームと連携し、配布会を行った。
5月21日 Hon for Japan.配布会の様子


Hon for Japan.の趣旨は「本は、読みたい人が手にとって選ぶもの」。絵本や児童書など子供向けの配布だけでなく、送る側の気持ちがこもっているならジャンルは決めず、小説、新書、ビジネス、料理、マンガ、アート、雑誌、写真集まで多岐に受け付けている。
「本は救援物資とはちがって、その人の趣味趣向のもの。古本屋さんのようになるべくたくさんの種類の本があって、そこから好きなものを選んで何冊でも持ち帰っていいですよ、というスタンスにしています」
配布会でもっとも人気が高いのは、マンガだ。
気仙沼市南郷地区での配布会では、トラックから積荷を降ろして並べた瞬間に、大人から子供までがいっせいにマンガのコーナーに集まり、好みのタイトルを見つけては持ち帰る姿があった。
Hon for Japan.の活動にボランティア参加していた気仙沼市赤岩港出身で仙台市在住の30代男性はこう語る。
「むかし働いていたパチンコ店から、コミックを600冊以上提供してもらって、自宅で拭いて埃を落としつつ仕分けして、地元の会場まで積んできました。積み荷を下ろして、開場した瞬間にほとんどのマンガがなくなって。僕も読みたい、と思うようなタイトルがいっぱいだった」
また、女性向けのマンガを段ボール数箱分提供した気仙沼市唐桑町の30代女性は
「三陸でマンガを読んで育ってきた自分だからこそ提供できる蔵書を、と思って選びました。本当に大切にしてきた本ばかりなので、迷いましたけど……自分の好きな本を友達に薦める! という気持ちで参加すればいいんだ、と思って。
たとえマイナーな本でも『これが読みたかった』とぴったりハマる子が、どこかにいるはずなんです」
Hon for Japan.の配布会に参加するのはマンガのファンばかりではない。近隣の避難所からきた女子中学生3人組は、アイドル雑誌のバックナンバーのまえで嬌声をあげ、みかん箱ひとつ分の雑誌を抱えて笑顔で帰っていった。


たまたま通りすがりに配布会と出会った50代男性は、趣味のスポーツ雑誌、カメラ雑誌などを手に取り、同年代と思われる人から送られてきた蔵書の箱のまえでじっくりと本を選んでいた。

片手に推理小説の文庫版を数冊持っていた40代の主婦は、「本当は料理本と手芸雑誌を探しにきたんですけど、人気があるみたいで、もうなくなっちゃったみたい」。
午前中に避難所から子連れで訪れた30代主婦は、いったんファッション誌と絵本十数冊を持ち帰ったあと、ふたたび一人で来場。「小学6年生の息子から、あるだけマンガ持ってきてと頼まれた」と、学生スタッフからおすすめの少年マンガを10巻セットで持ち帰っていった。


「ジョジョを全巻集めていたけど、津波で家ごと流されてしまった。きょうは前から気になっていた雑誌や、自分の読んでみたかった本、むかし学校で話題だったマンガに再会した」
会場でボランティアスタッフとして参加していたサッカーライターの吉村憲文さん(東京都在住)は、関西在住の時期に神戸で阪神淡路大震災を経験した。「物資の配布はニーズといかにマッチさせるかが大切だ」と語った。
「ほかの団体からも、被災地の子供に本を提供しよう、という動きはある。しかし、なぜか『マンガは除外』という内部規定をつくり、いわゆる“差しさわりのない”児童書や絵本が中心になったところもあるようだ。
被災地だからといって、自主規制をしたり、差しさわりのない本だけを配布して、それを受け取った人がうれしいと感じるかは、僕は、疑問に思う。
これは本だけでなく、いろんな分野に当てはまる。サッカーの世界でも、たくさんのスパイクが贈られたけれど、そのチームのニーズは『スパイクはもうたくさんある、ジャージとユニフォームがほしかった』という例もある」

Hon for Japan.の立ち上げから活動してきた菊地さん(20代女性)は、今後、本を持って帰ってもらうとき、避難所で読んでもらうときのことも考えてサポートできればと話す。
「書店で買った本なら、ブックカバーがついてきます。避難所のようにプライベート空間を持つことが難しい場所で読書される方に、そういったささやかなものを一緒に差し上げることができればと。選んだ本を持ち帰るときにも、タイトルを人に見られたくないと思う人もいると思いますから」
気仙沼市南郷での配布会では、地元のリーダーとして復興活動を行う武田眼科医院から、会場となった医院の駐車場と本を陳列するための棚が提供され、併設の気仙沼コンタクトレンズセンターからは、手提げバッグと中身の見えないビニール袋などが提供された。
「選んだ本をどんどん袋のなかに入れてゆく方の姿を見て、回を重ねるごとに、こまやかなサポートをしていければと思っています」(菊地さん)。
主催の佐藤さんは、Hon for Japan.の活動について「本当は、しなくてもいいのが、一番よいこと」と語る。
「被災地に来てなにかをした、本を送った、よろこばれた。それは一時的にはよいことなのかもしれないし、たくさんの方から『ありがとう』と言われて、たしかにうれしかったです。でも、主役は僕たちではありません。
一番よいことは、本屋を流されてしまった町の人から、『もう本は普通に買えるようになったから、いらないよ』と言われる日。
それが、この活動のゴールだと思っています。それまでは、ニーズがある限りがんばりたい。今後は、本だけでなく、映画の上映会など、プランナーとして働く自分のアイデアを生かして活動を広めていきたい」
Hon for Japan.の次回の開催予定などはホームページ(http://honforjapan.net/)で告知する。
個人での活動のため、保管場所の関係から本の受付を中止することもあるが、有志の協力によって準備でき次第受付は再開する。
「乱丁や落丁、落書きなど状態の悪いものや、情報の古い週刊誌などは受け取れませんが、みなさんの本棚から『これを人に薦めたいな』という思い出のある本をぜひ送ってください」
Hon for Japan. http://honforjapan.net/
Twitter http://twitter.com/lightsource01


